Vol 3:絵本「ぼく、ムシになっちゃった」
ぼく、ムシになっちゃった(世界の絵本コレクション) | |
ローレンス・デイヴィッド文・デルフィーン・デュラーンド絵・青山南訳 出版社 小峰書店 発売日 2002.07 価格?? ¥ 1,575(¥ 1,500) ISBN?? 4338126205 bk1で詳しく見る?? |
『グレゴリー・サンプソンは、ある日のあさ、目をさますと、でかいムシになっていました。』
という文章ではじまる、21世紀の『変身』の物語。
カフカの『変身』では、主人公のグレーゴル・ザムザは巨大な毒虫になり、周囲の人々から忌み嫌われ、深い孤独に追いやられます。
ところが、21世紀のグレコリー少年は、「ぼく、ムシになっちゃった」と訴えるのに、パパもママも妹も、彼がムシになったことに気づきません。
ママは新聞を読むのに、パパはお弁当を作るのに忙しいのです。
(このあたりが、アメリカですよね)
突然ムシになるという、降って湧いた不幸にも、グレゴリーは健気に立ち向かいます。
自分で着替えをして(上着には腕を通すところが二つしかないので、はさみでもう二つ穴を開けました)、歯磨きもして、いつもと同じに学校へ行きます。
学校でも、誰も彼の窮状に気づきません。
唯一気づいて心配してくれたのは、親友のマイケルだけでした。
グレゴリーは、ムシの姿で算数もサッカーも楽しみ、
『ムシになるにしても、じぶんがなんなのかぐらいはしらなくちゃね』と、
図書館で百科事典を調べたりもします。
学校が終わって家に帰っても、やっぱりムシのまま。
グレゴリーはいったいどうなるのでしょう?
ポップな絵と、ユーモラスな文章で、子どもたちは楽しく読めると思います。
けれども、わたしはとても哀しいお話だと思いました。
忙しくて、子どもが「困って」いることに気づかない親。それは私たちのことではないでしょうか?
ひょっとしたら、まさに今、我が子が窮状を訴えているのに、きちんと向き合わずに「あとでね」「気のせいよ」と上の空で応じ、「がんばれば大丈夫」と安易な励ましをしているかもしれません。
幸いなことに、グレゴリーのパパとママは、最後にはちゃんと気づいてくれます。そして、『きがつかなくてわるかったな』『話をきいてあげなくてごめんね』と謝り、グレゴリーが人間でもムシでも好きだと言って、キスしてくれました。
翌朝、グレゴリーは人間の男の子に戻りました。(ホントによかったね!)
この最後のシーンのお陰で救われる子ども(と大人)がたくさんいるのかもしれないな、と思いました。
子どもを持つ親としては、グレゴリーのパパやママのように、気づける親、謝れる親、
そして「ムシでも人間でも好き」と我が子を抱きしめられる親でありたい、としみじみと反省しました。
DATA:小学校1年生〜6年生まで。ゆっくり読んで、およそ15分。自分で読むのなら、3年生から大人まで。